作曲家冨田勲が明珍火箸に出会ったのは、1955年。
姫路駅で汽車を待つ間にお土産屋さんに置いてあった火箸風鈴を見つけて、なんとなく買ったのがきっかけです。家に帰って聴いてから、そのやわらかく深い音色に病みつきになりました。
それ以来、明珍火箸の音を曲の中で使おうとしましたが、この音を録音して再現するのは難しく、長く使うことができませんでした。それがようやく実現したのが、1997年NHKスペシャル『街道をゆく』のテーマ曲でした。↓↓↓
なぜ40年もかかったのか?
それは録音技術によるものです。
パルス的な音には非常にたくさんの周波数の音が瞬間的に詰まっています。モノの素材を調べるときに、コツコツと叩いて音を聴いたことがありませんか?コツコツと叩くだけで、その素材のもつたくさんの固有の振動を引き出すことができます。それが音になってミックスされたときに、その素材らしさとなって聴こえてくるわけです。
明珍火箸のぶつかり合う音には、非常に高い周波数の成分がたくさん含まれています。ひとつひとつを分解するとヒトの耳では聴こえないような領域の成分も含まれています。当時の録音技術では、それらの成分を記録することができず、結果としてバランスの悪い音になって、明珍火箸らしさを表現することができませんでした。
1990年代になって、CDを越える高い周波数まで録音できる技術が発展し、明珍火箸らしさの原型をとどめることがなんとかできるようになりました。
一方で再生スピーカーも超高域再生できるスーパーツイーターが登場してきました。ただしこれがなくても明珍火箸らしさを感じ取ることは十分できます。火箸風鈴の音をYouTubeからパソコンのスピーカーで聴いても、涼しさを味わうことはできます。
これは録音素材さえよければ、再生はある程度目をつぶることができることを意味しています。素晴らしく解像度の高い美しい写真は、圧縮してもかなりキレイに見えるのと同じです。もちろんスーパーツイーターを本気で再生できるシステムで聴いたときの鳥肌が立つような感動は得られませんが。
日本や世界を旅して、その土地の歴史、風土を考察した司馬遼太郎の『街道をゆく』。冨田勲はその深い洞察を、明珍火箸の奥行きのある響きで表現したかったのでしょう。
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