発売日の行列を当初5000人程度と考えていた、JR東日本の東京駅開業100周年記念Suica販売。15000枚限定。

東京駅100周年記念
出典:JR東日本

フタをあけてみれば、禁止されていた徹夜組を含め9000人が発売時刻の1時間前には殺到し大混乱。JRが安全面から販売を中止したため、さらなる混乱へ。

結局、後日JRの直販サイトから受け付けた所、年度内発送可能枚数10万枚のところ、499.1万枚の申し込みがありました。Suicaの年間販売枚数が300~400万枚といいますから、これがどれほどすごい数かがわかります。

JR東日本は2度のミスを犯しました。

後付けですが、イノベーター理論のフレームワークを使うとわかりやすく説明できます。

JR東日本の記念Suicaには過去に数々の販売実績がありました。

東京駅丸の内駅舎保存修復完成記念Suica・1万枚
Suica・PASMO相互利用記念Suica・10万枚
交通系ICカード 全国相互利用記念Suica 3万枚
などなど

これらがすべて窓口販売で混乱がなかったため、JR東日本は行列を多く見積もって5000人程度と予測したわけです。

しかしネーミングを見ただけでも、これまでの記念Suicaがイノベーター向けだったことがわかります。他の誰も持っていないレアなカードを集めたくなる人達向け。修復完成記念!とか相互利用記念!とか、ビックリマークが似合わないくらいこれを記念に思う人はレアです。

一方の、

東京駅開業100周年記念Suica

ネーミングがビシッと決まっています。
100という数字が美しい!
デザインも風格があり、他と違い縦型。

イノベーター向けではなく、アーリーアダプター向けです。
ベネフィットは、洒落たSuicaを所有できること。

第1のミスは、これまでと同じイノベーター向けと考えてしまったこと。販売初日は徹夜組のイノベータープラス転売屋に加えて、アーリーアダプターの一部の人が集まりました。

JR東日本は販売初日の大混乱を見て、さすがにこのことに気づきました。そこで10倍の販売数、10万枚を年度内発送として、超えた分はその後生産しながら発送すればいいやと考えました。

これが第2のミス。

初日の大混乱をマスコミが放っておくはずがありません。数日この問題を大々的に取り上げました。これによって東京駅開業100周年記念Suicaは、全国の幅広い層に認知されることになりました。

つまりキャズムを超えたのです。

こんな事件がなかったら、記念Suicaのことなど知るはずもなかった人たちが存在を知ることになりました。アーリーマジョリティは、アーリーアダプターがこのカードに殺到する姿を見て、「これはきっと素晴らしいものだ」と理解しました。そしてネット直販で購入できることを知り、注文ボタンを押しました。

JR東日本は、マスコミの広報パワーと、購入の障壁を下げたことによって、意図せずキャズムを超えました。

JR東日本は1年かけて生産、発送するそうです。
デポジットの500円x499.1万枚≒25億円は、丸々JR東日本の懐に入ります。
2度のミスとはいえ、担当者は苦笑いですね。

キャズムの記事:

キャズムへの向き合い方