私が初ボーナスで買ったのは、チタンフレームのロードレーサー。フレームだけで塗装用スモーク仕上げが25万円。「こんなのもあるんだけど」と見せてもらったのが、ピカピカの手磨き光沢仕上げ、35万円。その艶に惚れ込み、光沢仕上げを無塗装で使いました。10年手入れなしでもピカピカのままでした。

チタンの魅力は、高強度、軽量、高耐食、高耐熱です。
製錬加工が難しく、非常に高価だったので航空宇宙産業から使われはじめました。現在ではさまざまなチタン合金が開発され、高級車のパーツやゴルフクラブ、スピーカーの振動板など民生用にも使われるようになりました。

SONY PCM-D1 前面背面パネルにチタンを採用

SONY PCM-D1 前面背面パネルにチタンを採用



新日鐵住金は、汎用元素を使ったチタン合金の実用化で今年2015年6月に本多フロンティア賞を受賞。これまでのチタン合金は、バナジウム、モリブデンなどの希少元素を多量に添加していました。新日鐵住金は、アルミ、鉄、酸素、銅など汎用的で安価な元素を使って、生産性と低コストを両立させたチタン合金を実用化しました。

日本は世界有数のチタン展伸材生産国であり、新日鐵住金は国内最大のチタンメーカーです。今後も様々な用途開拓と共に、マーケットに合ったチタン合金開発を強化していこうとしています。そんな新日鐵住金が姫路の小さな鍛冶屋、明珍本舗にチタン材を供給しています。



玉鋼の火箸に熱中した52代明珍宗理は、次はチタンに熱中しています。最初にいろいろなチタン合金を取り寄せ、一番いい音がする材料から取り組んだところが、明珍らしいところです。

チタンは機械で鍛造し加工するのが常識ですが、明珍宗理は鉄の十倍以上の焼いては打ちを繰り返す手作業。4mm厚の材料が、鍛造を繰り返して半分になるそうです。風鈴、料理箸、ぐい呑、花器、音楽療法楽器ヒメノフォンなどと手がけ、さまざまな用途に挑戦しています。古来から伝わる甲冑技術独特の絹を使った黒の着色方法をチタンに応用。

金属実用化において、銅が6000年、鉄が4000年という長い歴史に比べ、チタンはたった50年。その歴史の浅いチタンを、870年続く鍛冶屋明珍本舗の叡智が、いつか進化させるに違いありません。新日鐵住金が明珍本舗と良好な関係を築いているのが素晴らしいですね。