牛丼の吉野家は、かつて牛丼単品の単一オペレーションを強みとしてビジネスモデルを固めていました。ですから、食券もない、伝票もない、牛丼をすくうお玉にまで研究を重ねていました。最速で牛丼を届けるための店舗レイアウト。それに対応するための従業員の訓練。「うまい、やすい、はやい」のためにすべての業務システムが組まれていました。

吉野家店頭
それが2003年BSE問題によって、いきなりアメリカ産牛肉の輸入がストップしてしまったのです。

だから単品のビジネスモデルはリスクが高い。とう指摘は簡単ですが、吉野家に対しては的確ではありません。むしろ単品だからこその強みを突出させたからこそ、吉野家は伸びたのです。

しかもアメリカ産牛肉でなければ吉野家の味は出せない。

と強くこだわりを見せ、厳しい足かせを自らはめていました。

その足かせがアダとなり、数カ月後にはすべてのアメリカ産牛肉在庫がなくなり、吉野家の店舗運営は根底から成り立たなくなる。という瀬戸際に追い込まれました。

変わらなければならない。
変えなければならない。

吉野家が下した決断は、

安全なアメリカ産牛肉の輸入が再開されるまで牛丼は出さない。
それまでは豚丼で勝負する。

という鮮烈なものでした。

長く吉野家の株主だった私は、その潔い決断に、心から応援をしたいと思いました。しかし、同時に不安も感じました。

ライバルたちはここぞとばかり、牛丼にオーストラリア産の牛肉の採用を決定。

かたくなにアメリカ産牛肉にこだわる吉野家。


このとき、吉野家代表取締役社長安部修仁は、どんなことを考えていたのでしょうか。

次回、その思考を想像しながら、変えるべきものと変えてはいけないものについて考えていきます。