岡本硝子は、1960年代、車のヘッドランプレンズ生産で培った
精密なガラス成型には自信がありました。
平らなガラスではなく、曲面をもったガラス成型。
高度な金型の技術やガラス硝材の技術を持っていました。
しかし、顧客からの要望である太陽光のような光を
反射させる反射鏡の開発には苦戦していました。
反射鏡は曲面でできています。
薄膜コーティングを委託した外部業者にとっては、
光を反射させるために曲面に薄膜をコーティング
する技術はありましたが、
光のスペクトルを積極的にコントロールするほどの、
精度の高いコーティング技術は持ち合わせていなかったのです。
岡本硝子は、自分たちの精度の高いガラス成型に見合った、
精度の高いコーティングを要求していましたが、
外部業者から戻ってくるサンプルは、
要求した精度で仕上がってこなかったのです。
ここで岡本硝子は重要な決断をします。
社員をコーティング業者のもとに半年間派遣し、
薄膜コーティングの基礎技術を習得させたのです。
外部業者にとっては、自分たちの主要な顧客が望む
精度以上のものを要求されても、それに応えようがなく、
困っていたところに、岡本硝子の社員派遣の話は、
悪い話ではなかったのです。
そもそも外部業者の主要な顧客と、岡本硝子の
主要な顧客は異なっていたので、
顧客が奪われる心配もありません。
薄膜コーティングの基礎技術を習得した社員が、
岡本硝子に戻ってきて、試行錯誤のスピードが
格段に速くなりました。
それによってわかったことは、実に単純なことでした。
薄膜が均一にできていない。
それを二つのアプローチで解決しました。1.より高精度のガラス成型技術を開発
2.お椀状の内面に均一に膜を真空蒸着させる技術の開発
その結果、屈折率の異なる薄膜を均一に、
何重にもコーティングし、ある光は透過させ、
別の光は反射させる多重薄膜コーティング技術を
完成させました。
出典:岡本硝子 研究開発>薄膜技術
デパートのディスプレイ用反射鏡は、この技術によって、
革新的な進歩を遂げました。反射鏡の分野で、
ゆるぎない地位を築いた岡本硝子は、
さらに研究開発を推進し、熱くならないデンタルミラーの
開発に成功しました。
世界シェア72%の岡本硝子の歯科治療用デンタルミラーとは何か?
さて、この開発ストーリーのポイント
1.岡本硝子は、ヘッドランプ市場に比べて、市場規模の小さな商品ディスプレイ照明市場からの要望に対して、なぜ力を入れて応えようとしたのか?
2.商品ディスプレイメーカーが相談を持ちかけたのは、なぜ
膜のコーティング会社ではなく、岡本硝子だったのか?
の答えは、次回のお楽しみ。