「私たちの作品は直営店のみの販売です」
この自信はどこから生まれるのでしょう。

シリーズ「飛躍の瞬間」
第6回は、江戸切子の熊倉硝子工芸
を取り上げます。

江戸切子、百貨店でも見かけますし、
お土産屋さんでも買うことができます。

しかし、熊倉硝子工芸の江戸切子は、
亀戸にある工房「華硝」に直接足を
運ぶか、直営のWeb販売で購入
するしかありません。

華硝の直販サイトには、
このように書かれています。

「私たちの作品は直営店のみの販売です。
百貨店などでは一切販売しておりません」

熊倉硝子工芸はもともとは、
OEM(相手先ブランドの製造)による
下請けでした。

終戦直後、初代が丁稚から独立した
ときから、長く問屋経由で、
委託生産をしていました。

1980年代後半になって、
たたかれる一方の値段と、
自由にものづくりをしたい。
との思いから、直販店を持つ
製造小売りに転換しました。

熊倉硝子工芸がこだわったのは、
手磨き。

いまやすべて手磨きで江戸切子を
仕上げる工房は、熊倉硝子工芸だけ
になりました。

江戸切子

 

 

 

 

 

 

出典:江戸切子 華硝

    • カットの鋭いエッジ
    • 色ガラスの鮮やかさ
    • 磨きとつや消しの共存
これらは手磨きでしか
実現できません。

その分、作り手のこだわりは、
作品を通して、使い手に伝わります。

熊倉社長はこのように言っています。

「いくらこだわっても、
売れる商品を作らなければ、
それは事業ではない」

「商品を買ってくれる人が、
どんな生活スタイルをしているのか、
常に考えている。」

熊倉硝子工芸の飛躍の瞬間は、
直販のみに転換する判断を
したときです。

この判断は、現実的には
簡単なことでは、ありません。

販路である、親会社の取引先(代理店)
と直接、商談することはできません。
なぜなら、中抜きを、
親会社も、その取引先も
許すわけにはいかないからです。

となれば、
自分たちのこだわりを通すには、
直販しか道は残っていなかったのかも
しれません。

直販メーカーは、
自分たちで売れる商品を
考えなければなりません。

しかし直販メーカーだからこそ、
自分たちが想定した、
顧客のライフスタイルと、
現実に購入した顧客のライフスタイルの
相違を、
ダイレクトに修正していく
ことができます。

一時は売り上げをすべて失うような
状況に陥っても、
直販を貫くことで、
オンリーワンのポジションを
獲得することができました。

今、熊倉硝子工芸は、
海外市場にチャレンジしています。

欧米の富裕層をターゲットに、
江戸切子の照明器具の開発と、
市場開拓を進めています。

そんな熊倉硝子工芸には、
安い中国製の江戸切子が
いくら出回っている現状にも、
「まったく影響はない」と
言い切れる自信が、
漲っています。