芥川賞ピース又吉の『火花』、本日21日さらに20万部の増刷が発表されました。合計発行部数124万部。

数ある文芸賞の中でも芥川賞は注目度が抜きん出ています。
これには創設者菊池寛の計算されたブランド戦略がありました。

菊池寛は小説家として有名ですが、どちらかといえば実業家と呼んだほうがふさわしい人物です。私費を投じて創刊した『文藝春秋』が成功し、財をなしました。家庭の経済的事情により、たびたび学費援助を受けていた経験からか、新進小説家への経済的援助を厭わず、文藝春秋の創刊や芥川賞、直木賞の創設も、そのポリシーに則ったものと考えられます。

菊池寛のビジネスセンスあふれるところは、ただの資金援助にとどまらず、マーケティングと一体になっていることです。「芥川賞は半分は雑誌の宣伝のためにやっているのだ」と明言しています。

すでに売れている文藝春秋出版の『火花』を、さらに売れると見て芥川賞にノミネートすることは、なんらおかしなことではありません。

ピース又吉ピース

しかし、ここで菊池寛はひと工夫しています。
はやくから芥川賞、直木賞の運営母体として財団法人『日本文学振興会』を設立し、公共の賞というブランドイメージを確立しました。ですから芥川賞に文藝春秋社の名前は直接でてきません。ところが、日本文学振興会の財源は文藝春秋社からの寄付で成り立っており、役員も文藝春秋社の関係者、事務所も文藝春秋社内。芥川賞候補作の絞り込みは、日本文学振興会から委託を受けた文藝春秋社員20名で構成されています。

新進小説家の発掘と雑誌の宣伝という両側面をもった芥川賞ですが、1935年の創設から20年ほどは期待したほどの話題にはなっていませんでした。1956年学生作家だった石原慎太郎の『太陽の季節』がブレイクして太陽族という社会現象まで引き起こしました。これ以降、マスコミが大きく取り上げるようになり今にいたっています。

本は本屋さんではなくアマゾンで買うようになり、ブックオフにも新しい本がすぐに並ぶようになりました。電子書籍の伸長も無視できません。出版という形態が問われている今、芸人が芥川賞受賞するという出来事は、石原慎太郎ほどのブームではないにせよ、時代のひとつの転換期に起きた象徴的な出来事だと思います。これをきっかけにどんな形でも本を読む人が増え、小説を書く人が増えて、またあっと驚くような人が芥川賞を受賞するような好循環が生まれてくることが、菊池寛が狙った芥川賞のブランド戦略そのものではないでしょうか。