新幹線開業以来、非常用ブレーキを供給しつづけてきた曙ブレーキ。自動車用のディスクブレーキで国内シェア40%のトップメーカーです。OEM世界シェアでも30%あります。
ディスクブレーキのような摩擦ブレーキの原理はとても単純。回転している車輪に、なんらかのものを強く押し付けて摩擦を増やして、回転速度を落とします。この押し付けるものを「ライニング」と呼びます。
曙ブレーキは、1929年に曙石綿工業所として産声をあげ、石綿を使ったブレーキ用のライニング製造からスタートしました。石綿は耐摩耗性、耐熱性に優れており、線維化することライニングとして使いやすかったのです。
戦後、化学産業が発展し、石綿を樹脂(レジン)に混ぜて成形する方式が主流になり、曙ブレーキは鉄道車両用の耐摩レジンの生産を開始しました。そのころは車輪の走行面にライニングを押し当てるブレーキが主流でしたが、鉄道の高速化に伴い、より安定したディスクブレーキが開発されました。1958年には、国鉄の特急こだま、あさかぜに曙ブレーキのディスクブレーキ用ライニングが採用されました。
曙ブレーキの最初の飛躍は、1960年に行った米国ベンディックス社との技術提携がきっかけでした。これにより曙ブレーキは、自動車用ブレーキの技術をいち早く取り入れ、その後のモータリゼーションの大波にうまく乗ることができました。
現在では、石綿=アスベストは発がん性の問題で使われなくなり、代わりにチタン酸カリウムと金属繊維になりました。
新幹線用のライニングは、高速・高付加対応のために、レジンではなく焼結合金です。
E5系新幹線はやぶさのブレーキライニング 出典:曙ブレーキ
曙ブレーキは2007年からF1のブレーキも供給開始しています。時速300kmから急減速したとき、ディスクブレーキのローターの温度は800度にも達するそうです。
曙ブレーキは「石綿」と「ブレーキ」の技術を鉄道市場で磨き、自動車市場で花咲かせました。一方で「高速」という市場で、特急電車からはじまり、新幹線のブレーキ市場へ進出。F1への挑戦は、「高速」への適応力を試しているともいえます。曙ブレーキはこのように「車」と「鉄道」の市場をいったりきたりしながら、技術蓄積を行ってきたといえます。
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