江戸っ子1号のキーパーツ、800気圧に耐えるガラス球を
開発した岡本硝子。

およそ10年ごとに脱皮、市場転換を7回も繰り返し、
成長してきました。

 

矢印サイクル

 

その第5の市場転換は、
車用のヘッドライトカバー市場から、
デパート照明器具の反射鏡開発を経て、
歯科治療用のデンタルミラー市場への転換でした。

その過程において、のちに岡本硝子の事業の要の技術となる、
薄膜技術を高度化し、ゆるぎないグローバルニッチトップの上場企業
になりました。

 

どのようにして市場転換を果たしたのか、
どのようにして薄膜技術を獲得して高度化したのか、
開発ストーリーを追いかけました。

世界シェア72%の岡本硝子の歯科治療用デンタルミラーとは何か?
岡本硝子のデンタルミラー、3つの優れた機能
岡本硝子、7回にわたる市場転換の秘密、デンタルミラー開発前夜
岡本硝子、7回にわたる市場転換の秘密、ディスプレイ照明反射鏡開発
岡本硝子、顧客の要望に応えるために薄膜技術の内製化決断

ここまで細かく追いかけることができたのは、
岡本硝子の当時の開発担当常務、生産担当常務、顧問の方々が、
長時間のインタビューに快く答えていただいたからです。

 

ケースはケースであって、過去の表面的な他社の行動を真似しても、
同じ結果にはなりません。しかし、当時の経営判断を細かく
追いかけていくと、そこには必ず経営判断の論理があります。
その論理を抽出して共有することに意義があります。

多くの中小企業は、いったんは事業ポジションを獲得して
成長しても、10年、15年と同じ市場向けに事業を続けるうちに、
じわじわと衰退していきます。なぜなら周りの環境はつねに、
変化していくからです。数少ない企業だけが、変化に適応して、
生き残ります。さらになんらかの飛躍を遂げて、脱皮した企業は、
ますます発展します。

岡本硝子の7回の飛躍に、共通した論理があるとすれば、
それは時代や事業環境が変わっても、通用する論理である
可能性が高いといえます。

 

では、岡本硝子の第5の市場転換にみられる経営判断の論理とは
なんでしょうか?

この開発ストーリーのポイントは、

1.岡本硝子は、ヘッドランプ市場に比べて、市場規模の小さな商品ディスプレイ照明市場からの要望に対して、なぜ力を入れて応えようとしたのか?

2.商品ディスプレイメーカーが相談を持ちかけたのは、なぜ
膜のコーティング会社ではなく、岡本硝子だったのか?

でした。

1.は、とても重要です。
通常業務の経営判断の論理では、キャッシュを産みだす大きな市場の
要望改善にこそ、経営資源を割くべきです。
先の見えない小さな市場の要望に、社員を他社に派遣してまで、
新しい技術を習得する決断は、通常業務の論理ではできません。

 

私の結論は、

岡本硝子の色に対するこだわり

という論理です。

そしてなぜそこまでこだわるのか?ということを説明するには、
実は岡本硝子の第1から第4までの市場転換の論理を、
ひも解く必要があります。

 

企業は、人と同じ、経験と歴史と文化があります。
それはどこにも明文化されていないけれども、
確かに長年組織に脈々と受け継がれている
「感情」であり、「論理」であり「成功体験」です。

ときに成功体験は足を引っ張ると言われますが、
それはうわべの行動だけをマネすることから起こります。
そうではなく、長年組織に受け継がれている感情や論理に
根ざして経営判断することで、成功体験は活かされます。

次回から、岡本硝子が色にこだわる文化の歴史について、
さらに掘り下げていきます。