先日、ソニー時代にお世話になったメンターに、
旨い鮨屋に連れて行っていただきました。

日本橋の本格江戸前鮨。

楽しい!

ドアを開けた瞬間から、
すべてが計算された空間、おもてなし。

2時間半のエンターテインメントを、
存分に味わいました。

おいしい+楽しい。

とにかく楽しいのです。

はじめて経験すること。って
人生の中で、とっても貴重な瞬間なんだな。

とつくづく感じました。

今まで何百回も食べたことのあるイカ。

口に入れた瞬間から、
これまで体験したことのない、
食感、味、感覚。

とにかく体全体が、
「あ、これははじめてだぞ」
と喜びの反応をするのです。

炙りサーモン

能書き、虚栄、経験、
そんなものは、完全にどこかに
ぶっ飛んで、

左脳も右脳も脊髄もない、
体と心の反応。

それに加えて、

組み立て

がすごいのです。

最初のさりげない会話から、
前菜にはじまり、手を変え、品を変え、
楽しんだあとでの、
握りのひとつ、ひとつ。

味覚の緩急あり、
会話の緩急あり。
間、あり。

参りました。

そして、今朝。

偶然YouTubeで見つけた、
慶応大学の物理情報数学Aの講義。

高校の復習だよ。
とグレーのフード付きトレーナーで、
学生風な雰囲気の、山本直樹先生は、
淡々と講義を進めました。

“i”:複素数の復習

“i”ってこんなものだったよね。
数なんだけど見えないんだよね。
と一通りの説明のあと、

「こんな仮想的な数を導入して、
どんなメリットがある?」

「我々の疑問はこの一点に尽きます」

と言い放ちました。

「あれっ?」

と思いました。
そういえばそうですね。
そんな素朴な疑問、意義を
考えたことありませんでした。

そしてここからが、
エンターテインメントだったのです。

3つのメリットに対する、
簡潔な説明があって、
そこまでが10分。

この冒頭の10分を遅刻して、
聞き逃した学生は、
この講義のすべて、
半年、いや一生が、
つまらなくなったでしょう。

特に、「役に立つ」という
メリットの例として出てきた、
フーリエ解析。

音響専門の大学院を出て、
音の仕事を長年やってきた私には、
何百回も食べたことのあるイカのようなもの。

でも山本先生のイカは、
はじめての食感でした。

はじめて経験することって、
すばらしい。

でも提供する側は、
経験に基づいた入念な工夫、準備が必要。

受け取る側も感性が必要。

私も、相手の感性を揺さぶる
「はじめてのイカ」
が提供できるよう、
精進したい。

そう思いました。