職人気質のピリピリした現場、やめていく若者。
伝わらない技術。
そんな雰囲気を一変する秘策はあるのでしょうか?

大震災のとき、原子力発電所で
最後の砦となったのが、
鋼鉄製の原子炉圧力容器。

圧力容器の鋼板の厚さは、150mm~300mm。

これくらい厚い鋼板になると、
切断するのも容易ではありません。

薄い鋼板は、金属の刃やレーザーで
切断しますが、
厚鋼板は、
ガスの熱と高圧酸素を使って、
溶かして切る技術を使います。

これを鎔断と呼びます。

厚ければ厚いほど、
職人的な技と経験と勘が
必要になる技術です。

鎔断小

出典:菰下精密鎔断

この鎔断の技術で、
造船や、原子力発電関連の、
そうそうたる大企業から、
絶大なる信頼を得ているのは、

厚木にある菰下精密鎔断。

22人の職人を束ねているのは、
菰下淑子社長39歳。

祖父の代から続くこの会社を、
22歳で入社し、32歳で社長に就任しました。

就任してから、取引先を造船、原子力業界
以外にも開拓してきたおかげで、
リーマンショックも乗り越えることが
できました。

新規開拓できたのは、ある秘策が
あったのです。

それは一台のトラック。

それまでは、取引先が、
完成品を取りに来るのが通例でした。

それを菰下社長は、
自社トラックで納品する体制に変えました。

これには様々な波及効果がありました。

まず、
取引先の要望をダイレクトに聞く機会が
できました。

そのおかげで、受注が増えました。

さらに、より複雑な加工を依頼される
ようになりました。

それまでは、菰下精密鎔断では、
切断のみで、複雑な加工は、
他の複数の加工企業が行っていました。

取引先は、そのつど、
トラックで加工企業に品物を運び、
手間、時間、コストがかかっていました。

複雑な加工にはチャレンジが必要でしたが、
職人たちはかえってやる気になり、
菰下精密鎔断であらゆる加工が、
完結できるように技術力が上がりました。

結果として、3割以上のコストダウンにつながり、
取引先は、さらに発注を増やすことになりました。

また、加工した職人に直接取引先に届けさせる
ようにしました。

職人は顧客の声をダイレクトに聞き、
達成感、責任感、技術力が向上しました。

業界で唯一の1200mm鋼板を鎔断できる
技術者が2人育ちました。。
また、500mm鋼板を鎔断できる若手が
4人誕生しました。

トラック一台が、
こんなにも効果があったのです。

そして社内を生き生きとした職場に
変えました。

顧客と直接触れ合う機会。
工夫すればもっと増やせるはずです。
そしてその波及効果は、とても幅広いのです。