前回のつづき

■撮影初日

ウォーミングアップをかねて、
みんなで吉野ケ里遺跡を見学に。

ロケバスなどという高級なものは、
私たちには用意されず、
福岡から佐賀まで電車で移動。

NHKのディレクターが1名。
この人が面接して、私たち学生4名を
選びました。
カメラマン1名。見るからに職人肌。
音声さん兼雑用係り1名。若い。

撮影カメラマン

吉野ケ里遺跡は1986年の発掘調査で
発見された、大規模な環濠集落跡。

弥生ブームはまだ衰えておらず、
観光バスでたくさんの観光客が、
訪れていました。

人が集まるところには、屋台が並ぶ。

ということで、
観光客目当てに、
様々な物販の屋台が並んでいました。

 

「お客さんたくさん来てますか?」
と屋台のおばさんに声をかけると、
「毎日、たくさん来んしゃーよ。
ちょっとあんた、
これおいしいけん食べていかんね?」
と、お団子一口くれました。

 

なにげないやりとり。

 

ここでカメラマンがこう言ったのです。

「島君、今のやりとりいいねぇ。
もう一回やって」

 

実に自然にいつものことのように、
言われました。

ついさっきはじめて会話した人と、
もう一度はじめて会ったように話す。

そんなことが素人の私にできるのか?

なんとかやり遂げたとして、
撮影された映像は、はたして
見ている人に不自然に見られないか?

これから自分はそういう「演技」を
続けることになるのか?

 

その場は、なんとか言い逃れたのか、
それともぎこちなくやったのか、
今となっては思い出せません。

が、それ以降、
このことが頭にずっと残って、
当初のウキウキした気持ちは、
吹き飛んで、
撮影がひどくつまらないもの
に思えました。

この土曜倶楽部という若者向けの
番組自体が、
なにかうそで塗り固められた、
うわべだけの番組。
のようにも思えてきました。

 

一日、もやもやが晴れないまま、
撮影終了後、大学の寮に帰り、
地に足がつかないような気持ちで、
ついには、
このバイトを続けるべきではないのでは。
と考えるようになりました。

友人に相談。
友人は、いいとも、悪いともいわず、
だまって私の言い分を聞いてくれました。

 

一晩悩み、結論もでないまま朝を
迎えましたが、ひとつだけ決断
できたことがありました。

与えられた仕事を放り投げるわけにはいかない。
しかし納得のいかないことはしない。
この疑問をディレクターとカメラマンに
ぶつける。

 

若いですね。
今思えば当たり前の決断にたどり着くのに、
一晩かかっていますね。

 

そして、
相変わらず地に足がつかないような
ふわふわした状態で、
集合場所に指定された、
発掘現場に、
早朝向かいました。

照明機材テレビの演出と「ほこ×たて」の失敗

へつづく。