私のテレビ初出演は、
前回書いたように、
苦いスタートでした。
なにげない自然な会話をしたあとで、
「もう一回やって」
と言われることに疑問を感じました。
これがバラエティー色の強い番組で
あれば、喜んで何度も、
受けのいいテイクを重ねたでしょう。
もともと大阪生まれですから、
サービス精神は旺盛なのです。
土曜倶楽部という番組の構成は、
若者が新しいことにチャレンジする姿を
追うドキュメンタリーが中心でした。
しかし当時の私には理解できて
いなかったことがあります。
土曜倶楽部という番組自体は、
決してドキュメンタリーなどでは
なかったのです。
むしろバラエティーなのです。
プロデューサーが描いた土曜倶楽部の
仕掛け、
若者がなにかにチャレンジするときに、
起こる失敗や、ぶつかる壁のようなものを、
映像記録から抽出、編集して、
スタジオ収録で流す。
あるテーマを意図して編集された
映像を見ながら、若者が議論をして、
意図された「気付き」に
たどり着く。
ただし、起こる事件も、スタジオでの
議論も、シナリオはないので、
ときに予想外の展開も生まれる。
その予想外の展開こそが、
従来の、シナリオが決まったドラマにはない、
番組の新しさ、おもしろさに変わる。
そんなことを意図して制作される、
バラエティー番組なのです。
■撮影二日目
発掘現場に到着した私は、
いきなり発掘作業に投入されました。
そこは撮影というきれいな現場ではなく、
肉体労働とも呼べる過酷な現場でした。
しかし発掘作業に携わるおばさんたちが、
私たちを温かく迎えてくださり、
いつのまにか、
撮影とか演出とかそういうことは、
どうでもよくなり、
この人たちと一緒に働くことの
喜びのようなものを感じるように
なっていました。
ディレクターの策略にまんまと
はまったのかもしれません。
とはいえ、昨日の疑問点ははっきり
しておく必要がありました。
ディレクターとカメラマンは晩御飯を
食べながら、私の話に
じっと耳を傾けていました。
そして私にテレビ業界の常識はこうだ。
と押し付けることもなく、
私の疑問を青二才と否定することもなく、
かといって同調するわけでもなく、
大人の度量の深さで、
私の疑問を理解してくれました。
その日から私も少しづつ、
ディレクターの役割、撮影の作法
に慣れ始めました。
ディレクターには、撮りたい画
のイメージがあるようでした。
しかしそれは出演者には伝えず、
「場」だけを設定します。
カメラマンは、ディレクターの撮りたい画を
「場」の中で追いかけます。
が、ときには出演者の予想外の動きに、
いい画を撮り損ねることもあるのです。
そういうときに、
「もう一回」
と思わず口に出るわけです。
その「もう一回」が活きるか
どうかは、
ディレクションと出演者の呼吸に
よります。
私の好きな番組「ほこ×たて」が、
過剰な演出を出演者から指摘され、
放送中止になりました。
ほこ対たての部分は、
ドキュメンタリータッチです。
しかし番組は明らかに、
そのドキュメンタリーを題材にした、
バラエティーです。
今回の指摘は、
ドキュメンタリー部分の演出が、
あまりにも過剰。
ということでした。
そこにディレクションと出演者の
呼吸はなかったのでしょう。
演出の可否、度合い、については、
当然議論されるべきですが、
私は、ディレクターが出演者を
欺いたことに問題があると思います。
出演者を騙して、よい番組が
できるわけがないですね。
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