子供のころのある日、父がボーナスをいっぱいもらったとかなんとかで、1万円札のたくさん入った封筒を自慢気に家にもって帰ったことがありました。父は当時銀行員だったので、扇型のように札束を広げて、シャッシャッシャッと見事にお金を数えました。

これは横勘という数え方で、4枚づつ数えるのが一番間違いが少なく、速い。というようなことを教わりました。100万円であれば、4枚ずつ数えて、25回カウントすることになります。これに対して、一枚づつ数えるのは縦勘。親指で一枚づつ、紙幣をずらしながら、薬指でめくるのがコツ。見よう見まねで練習しましたが、30万円を超えるくらいから、横勘のほうが速くなります。

学校の先生がプリントを数えるのとはわけが違い、絶対に数え間違いは許されないのだと、父は強調していました。それはそうですよね。銀行に行って、一枚くらい間違えてもしょうがないとはとても思えません。

万札

ATMで現金を引き出すと、「シャー、バタバタバタ」と音がして、中で機械が紙幣を数えているのがわかります。たまには一枚くらい多く入ってないかなぁ。と思いますが、そんなことが起きたことはいまだにありません。ATMの紙幣計算機は、小型のポンプで真空状態を瞬時につくって、一枚一枚紙幣を吸い付けることで、カウントしています。このATM用の真空ポンプで国内市場ほぼ100%のシェアをもつのが、東京都大田区の三津海製作所です。海外でも6割のシェアがあります。

真空状態を作り出すために、潤滑油が不可欠だったポンプは、紙幣に油のにおいが付着することと、メンテナンス性が悪いことが難点でした。三津海製作所は油を使わなくてもよい方式を開発しました。これによってATMだけでなく、歯科の吸引ポンプ。麻酔ガスをコントロールするポンプなど医療機器にも市場を広げました。麻酔ガス吸引ポンプは国内シェア、100%!!

1960年代、あるメーカーが紙幣計算機の開発のために、数々のポンプメーカーをあたりましたが、どこも断ったそうです。三津海製作所だけが、「やってみよう」とチャレンジしました。それ以来、基本的にクライアントの依頼を断らない姿勢を貫き、技術の蓄積を重ねてきました。この油を使わない真空ポンプの技術はエスプレッソマシンにも使われています。