先日ご紹介した動画。
この動画では、パイナップルの切り方も知らなかった少女が、見よう見まねで切り方を覚え、アイスのように棒を挿して食べることを思いつきます。
「これ売れるかもね」
そういう思いつきや会話は、どこにでもある他愛のないものです。この少女が違ったのは、アイスボックスにパインアイスを入れて、実際に町に売りに行ったことです。しかし、少女はたったひとつのパインアイスを売ることもできずに家に帰りました。
「製品」と「商品」の違いを、
「製品」は製造された物品
「商品」は販売するための物品
と一般的な意味に当てはめれば、少女が売りに行こうと思った瞬間から、パインアイスは「製品」から「商品」になりました。
しかしソニーの創業者盛田昭夫は、
その製品を手に入れたいという欲求を、人々の間に喚起させなければ、いかに優れた「製品」であっても「商品」にはなり得ない。
盛田昭夫
と手厳しく、「商品でない製品」を批判しています。
つまり、盛田昭夫に言わせれば、少女のパインアイスはこの時点では「商品」になっていないことになります。
新しいアイデアを出す。
それを形にする。
そして売りに行く。
これだけでは「商品」とは呼べないのだ。と、盛田昭夫は言います。
ソニーという会社は、盛田昭夫のいう「商品でない製品」を数多く創作した会社でした。かつて私もソニーにいるころに、アイデア勝負でユニークな製品を産みだしながら、ほとんど売れなかった経験を、2つばかり持っています。ソニーには「商品でない製品」を産み出す豊かな土壌がありました。数少ない大ヒット商品はそんななかから産まれました。
盛田昭夫は「商品でない製品」を批判しながらも、その存在を否定していません。「つくるだけではダメなんだ。その先が大事なんだ。」といいつつ、「つくる」ことが大好きな技術者の愉快なる理想工場を目指していました。
そんなものがまだ生産されたこともなく、誰ひとりそれを見たこともないのに、どこかの一隅でこつこつと研究され、非常な苦心の末、製造された製品。
盛田昭夫
技術者あがりの盛田昭夫は知っていたのです。誰も見たことがない製品をつくることのたいへんな苦労を。そしてそれが徒労に終わることの寂しさを。だからこそ「製品」と「ヒトの心」をどう結びつけるかが、ユニークな製品を創作するのと同じくらい大事なことなんだ。と社員に伝えたかったのでしょう。
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