久々の受験現代文選択問題シリーズです。

6月18日放送の「とんねるずのみなさんのおかげでした」に出演した女優広瀬すずさんの発言が、番組スタッフを軽視した発言だとしてネットで炎上しました。翌日、広瀬さんは、「軽率な発言だった」と自身のブログで謝罪しました。

公式動画はこちら↓↓↓
問題のシーンは、12分22秒から14分46秒にかけて。



これに対して、「失言だ、スタッフに失礼」とする意見がある一方、
「17歳の子にはわからない」と広瀬さんを擁護する声もあがりました。

では、実際、どのような文脈で、どんな発言をしたのでしょうか?
動画を見るのが一番ですが、現代文の選択問題風にしてみました。
回答を考えながら、広瀬さんの真意に迫ってみましょう。

 

■次の会話を読んで、あとの問いに答えなさい。

17歳で売り出し中の女優広瀬すずさんと、ベテランお笑いコンビ「とんねるず」の石橋さんと木梨さん、そしてベテラン俳優の佐々木さんたち4人のテレビ収録での会話です。

石橋「すずちゃん、どんな人が好きなの?」
広瀬「価値観が一緒の人がいいです」
石橋「価値観が一緒?」
佐々木「ほぉ~」
木梨「しっかり言ったね今」
広瀬「すごい私ドライなんですよ、結構冷めてて、、、だからなんかイルミネーションとか、夜景とか、あんまり興味がなくて。イルミネーション見て『わぁ~』っていうリアクションが出来なくて」
石橋「なんだ、ただの電飾じゃないかっていう」
木梨「電飾うまく巻いてんなぁとか?」
広瀬「どこからどう繋がって、これをあんな高い所にかけたお家の人は一生懸命やってるんだなぁ。というのはわかるんですけど、」
木梨「やっぱ同じ目線なんだ」
石橋「じゃぁさ、こういうテレビ局とかさ、働いている照明さんなんか見ても」
広瀬「そういうとき、照明さん見るときは、どうして生まれてから大人になった時に照明さんになろうと思ったんだろう?」
石橋「バカだなぁ、小田原!って思っちゃうの」(小田原さんは収録現場の照明さん)
広瀬「録音部さんとかも、ずっとドラマとかこうやってやってるじゃないですか。すっごい腕疲れるのに、」(音声マイクを持つ素振りをしながら)
石橋「こうやってね」(同じく素振りをしながら)
広瀬「なんで自分の人生を女優さんの声を録ることに懸けてるんだろう?」
木梨「いいですね~」
広瀬「すごい考えちゃいます」
石橋「考えちゃう?」
広瀬「音声さん、ずっとこうしてるんですよ」
木梨「ねっ、見切れないように、こう、ギリで」(素振りをしながら)
石橋「バッカやろう、影出すなよって言われながら」
広瀬「あっ、すいませんって、短くしたり長くしたりで」
石橋「下からこういったりとか」
広瀬「きっとこれ大人になって年齢重ねると共に本当に棒を……声を録るだけでいいの?って」
木梨「絶対思いますよ。ずうっと人の声録ってるから、もう録りたくない!人の声なんて!あぁ~!」(キレる芝居をしながら)
広瀬「だからどうして音声さんになったのかなぁって」
木梨「あぁ~!」
広瀬「って思ってるんだろうってすごい思います」
木梨「絶対思ってます」
石橋「思っちゃう?」
木梨「見切れてやれ~!」(キレて)
広瀬「思っちゃいます」
石橋「とにかくドライ、ドライなんだね」
石橋「それでどんなデートがしたいの?」

 

[問]この会話から広瀬さんの気持ちを説明したものとして最も適切なのは、次のうちどれか。ひとつだけ答えなさい。

1.音声さんがずっと女優の声ばかり録っていてかわいそうだなと思っている
2.音声さんとはデートできないと思っている
3.大人になっても音声さんにはなりたくないと思っている
4.音声さんは一生懸命やっていないと思っている

 
イルミネーション

 

受験現代文の鉄則は、以下です。

○本文の主題に沿った選択肢を選ぶ
○言葉の意味を正確に捉え、ごく表面的に選択する

また、受験生を惑わすために出題者は、正解の選択肢ほど、重要な言葉をうそっぽく言い換えて、不正解の選択肢ほど、キーワードをそのまま使う傾向にあります。

 

まず、この会話は、石橋さんの、
「すずちゃん、どんな人が好きなの?」ではじまり、
「それでどんなデートがしたいの?」で終わります。
つまりこの会話の主題は、「広瀬さんがどんな人が好きか」です。

そして広瀬さんの回答は、「価値観の同じ人」であり、どんな価値観かというと、「ドライ」という価値観です。

そして価値観の合わない人=ドライでない人の第1の例が提示されます。

イルミネーションを見て、『わぁ~』と言える人=ドライでない人

そして同時に、イルミネーションに一生懸命になる人もまた、ドライでない人、つまり価値観を共有できない人と考えています。

次に石橋さんがイルミネーションに一生懸命になる別の例として、照明さんを例に出しています。

照明さんを見て、『わぁ~』と言えない人=自分=ドライな人
照明に一生懸命になる人=ドライでない人

さらに音声さんについても、

音声さんを見て、『わぁ~』と言えない人=自分=ドライな人
人の声を録ることに一生懸命になる人=ドライでない人

このようにドライな人とドライでない人の例を二重構造で説明しているところが、この会話を一見複雑にしています。

ここまで構造を分析したうえで、選択肢を見ると、

4.音声さんは一生懸命やっていないと思っている
音声さん=ドライでない人は一生懸命やっている人なので、これは逆。

1.音声さんがずっと女優の声ばかり録っていてかわいそうだなと思っている

そう思っているしれませんが、「かわいそう」とは言っていません。

3.大人になっても音声さんにはなりたくないと思っている

これもそうかもしれませんが、年齢を重ねると自分の仕事に疑問を感じるだろう。と言っていますが、「なりたくない」とは明言していません。

したがって正解は、

2.音声さんとはデートできないと思っている

この会話の主題と結論は、広瀬さんがドライな人が好き。ということです。それに沿った選択肢は2.しかありません。そしてドライでない人=音声さんですから、音声さんとはデートできません。

それにしても、これだけ複雑で一見発散した会話を最後に、

石橋「とにかくドライ、ドライなんだね」
石橋「それでどんなデートがしたいの?」

と主題にひき戻すことのできる石橋さんの手腕は素晴らしいですね。

 

会話の一部分だけを切り取ると、発言者の意図、会話全体の主題はわからなくなります。確かにそこだけ切り取ると、悪意のある発言のようにも思えますし、広瀬さんの未熟さも感じます。しかし切り取った文だけで発言者の意図を判断するようでは、正しい選択肢は選べません。

17歳とはいえ、プロの女優がスタッフを軽視すると誤解されるような表現をしたことは軽率でした。その点について翌日しっかりと謝罪したことは、芸能界で長く仕事を続けていくためには賢明な判断だったと思います。

■受験現代文選択問題シリーズ