昔、母がお風呂の水を貯めるのに、蛇口を目一杯絞って、ちょろちょろと午前中から水を貯めていたのを思い出します。こうすると水道メーターの反応が鈍くなり水道料金を節約できるのだとか。

現在の水道メーターは高性能になり、残念ながらそんな技は通用しなくなっています。

塵も積もれば山となる。

風呂桶という大きな器があると、ちょろちょとした水の流入でもいつかは風呂桶が水で満たされ、たっぷりと水(お湯)を使うことができるようになります。

テスラのPowerwallは、そういう発想が基本です。太陽光発電は発電能力が小さく、天候に大きく左右されます。蛇口からちょろちょろと水が出ており、かつほとんど水が出ていない時もあるような不安定な状態です。しかしPowerwallが風呂桶の役割を果たします。蛇口を全開にしてもすぐには水がなくならない余裕があります。おかげで安定的に電力を使用できます。

powerwall
Tesla Powerwall

 

その風呂桶を格安で作ったところにテスラの革新性があります。

従来から電気の風呂桶があるといいね。ということはわかっていました。各社大容量のリチウムイオンバッテリーの開発に凌ぎを削っていました。しかし大容量のバッテリーの需要がそもそもないので、一台一台の価格が非常に高価なものに。10kWhで150万~200万円。

それに対してテスラは、汎用性の高い18650セルを大量に使う方式を採用しました。(18650セルとは、直径18mm、長さ65mmのリチウムイオンバッテリーセル、従来のノートパソコンなどに汎用的に使われ大量生産された実績のあるセル。)このセルの単価は、25円/Wh(開発当初)、つまり単純に足せば、10kWhで25万円。大容量バッテリーに比べて圧倒的に格安です。

 

しかし数千個のバッテリーを並列に使用する技術は、かなり難易度の高い技術とノウハウの集積がないと実現できません。それをやったのがパナソニック。2009年、18650セルを140本使ったモジュールを発表しました。車載用や家庭用の大容量バッテリーには、従来の数倍以上の充放電回数と、絶対的な安全性が求められます。中国系メーカーが最も苦手とする技術です。テスラはあらゆるメーカーのリチウムイオンバッテリーを検証し、パナソニックをパートナーとして選びました。

テスラのPowerwallの価格が、10kWhで3500ドル。開発当初に比べてリチウムイオンバッテリーの画期的なコストダウンが実現していることがわかります。車載用で量産化し、充放電回数と安全性の技術蓄積を重ねたうえでの家庭用参入。日本初の技術を車載用という新しい市場で育てながら、家庭内電力革命に備えています。

 

10年後には冷蔵庫を買うような感覚で、Powerwallをネット注文するのが普通になっているでしょう。