この飛躍の瞬間シリーズは、
18回になりました。
毎回異なるキーワードをテーマに
していますが、すべての回で
共通していることがあります。

瞬間は継続の中で訪れる

物理の法則そのままですね。
途切れることのない時間の中で、
飛躍した瞬間を捉えようとすれば
するほど、それまでの時間の流れの
重みに気づきます。

技術的飛躍には、その飛躍の瞬間を
迎えるための土台として、
長年の技術の蓄積があります。

 

ノーベル物理学賞を受賞した
天野浩名古屋大学教授が、
大学院の学生のときにMOVPE法で世界で初めて、
窒化ガリウムの単結晶を作製に成功したときも、
その瞬間には、やはり仮説と検証の継続
技術の蓄積が必要でした。

ノーベル賞メダル
出典:Nobel Prize

名古屋大学4年生で赤崎研究室に入り、
一回に準備と片付けを含めると
5~6時間かかる実験を
千数百回も繰り返した天野教授。
3年間失敗続きで、大学院修士課程は
あと2ヶ月で終わろうとしていました。

窒化ガリウムの単結晶は、赤崎教授が
作製に成功していたものの、その方法は
職人技で、とても実用化できるものでは
ありませんでした。天野教授が選んだ
方法は、より簡易なMOVPE法。
サファイア基板に高温でガスを吹き付けて、
単結晶を成長させます。

並みの人間は、1000回実験する前に、
諦めています。赤崎教授の職人技のほうが、
作りやすいのでは。と途中で疑問に思う
でしょう。

なぜ天野教授は諦めなかったのか?





夢とか希望とか、そんな生っちょろいもの
ではありません。





千数百回の実験、
それぞれに、意味があったからです。

 

当て推量でいろいろと試したわけでは
ありません。単純に2つの選択肢が、
10種類あるだけで、すべてのパターンを
実験すると、1024回になります。

実際には、何億通りの可能性の中から、
絞りに絞った千数百回の実験だったのでは
ないでしょうか。

 

しかし、成功のパターンは、
想定した何億通りの中にはなかったのです。

ある日、炉の調子が悪く必要な温度まで
上がらなくなりました。
ここで
「修理ができるまで、実験はお休みだ!」
とならないところが、天野教授なのです。

今日はこの条件で、できることはなんだろう

と考えたわけです。

この時が、飛躍の瞬間です。

 

低温では窒化ガリウムは作れないが、
窒化アルミニウムの薄膜なら作れる。
この薄膜が緩衝材になって、
サファイアと窒化ガリウムの相性の
悪さを吸収できるかもしれない。

そういう発想が、「低温」という
限られた条件から生まれたのです。

 

実験は千数百回目にして初めて成功し、
この方法が、青色LEDの実用化につながる
「低温バッファ層技術」
の原点となりました。

 

なにかがうまくいかないとき。
その時こそが、飛躍のチャンスなのです。

 

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