直販コンサルタント島が見た、
飛躍の瞬間
シリーズ第

 

企業や個人がブレイクする
飛躍の瞬間には何があったのか?
そこからなにを学び、
どのように直販売上アップに活かすのか。
第2回は、

すでに歴史上の商品になった
ソニーのウォークマン

 

家で聞くことしかできなかった音楽を、
屋外にはじめて持ち出した画期的商品。
それまで音楽はみんなで聞くものでした。
それを個人がいつでもどこでも楽しめるものに
変えました。

 

現代のスマートフォンも
いつでもどこでも」という意味で、
ウォークマンの延長線上と捉えると、
世界に与えた影響力は、計り知れません。

 

ではその画期的商品誕生の、
飛躍の瞬間には何があったのでしょうか?

 

海外出張の多い、ソニー創業者井深大(いぶかまさる)は、

あるときこんなことを社員につぶやきました。

 

「飛行機の中では好きな音楽を聴いていたい。
でもこのプレスマンは重くてかなわんなぁ。」

 

プレスマンというのは、当時のソニー主力の小型カセットテープレコーダーのこと。

 

当時のカセットテープのコンセプトは、

・家で音楽を録音して、家で何度も聞く
・外で生録して、家で楽しむ

この二つ。

2番目の生録する人をターゲットに、
ソニーお得意の小型化した商品が、
プレスマンだったのです。

 

私も持っていて、全国鈍行列車の旅の
道ずれにしていました。
プレスマンで、「外で」音楽を楽しむ。
という発想自体は、
誰でも思いつくし、やっていたことです。

 

井深大の「重くてかなわん」は、
つぶやきでは終わりませんでした。
あるとき、

「録音機能を外した軽いやつを、
出張用に一台作ってくれ」

と部下に指示しました。

 

フットワークの軽い優秀なエンジニアたちは、
「録音機能外すだけ、簡単簡単!」
と、一晩で作って井深に持っていきました。

 

井深は、さっそくそれに大きなヘッドホン
を付けて試してみました。そしてすぐに、
盛田昭夫(ソニー共同創業者)に、
「これ聴いてみてくれんかね」
と持っていったのです。

プレスマン

ここで天才的なマーケッター盛田は、
ひらめいたのです。
「これは持ち運びができて、自分一人で聴ける。
これは、ひょっとするとひょっとするぞ!」と。

 

出典:ソニー

 
 
さらに、持ち運ぶならヘッドホンもこんな
大きくてはかなわない。そういえば、
社内で軽量ヘッドホンの技術を開発していた。
それと組み合わせて商品化しよう。
と動き出しました。

 

事業部は、
「やっぱり録音機能も付けたほうが
よいのでは」と言い張りましたが、
盛田が頑として聞き入れず、
ここに、
「再生専用小型ヘッドホンステレオ」
ウォークマンのコンセプトが誕生しました。

 

盛田の天才的な直観と、意志の強さが、
ウォークマンを産んだ。
とよく言われています。

 

確かにそうなのですが、それでは、
私たちがこの貴重なケースを、
自分たちで再現、活用できません。
私たちはスーパーマン盛田昭夫には、
なれないのですから。

 

直販コンサルタント島が照準を合わせる
飛躍の瞬間は、

 

井深大が自分のわがままを
「指示」に変えたとき

 

です。

 

ウォークマンの記念すべき試作第1号機は、
井深大というたった一人のわがままな人の
ために作られたのです。

 

マーケティングの世界では、
ターゲットを絞ることが重要だと
言われます。

 

究極に絞ったターゲットは、
「世界中でたった一人、あなたのために」
です。

 

ターゲットは絞りに絞って、
細く尖ったくさびになって、
はじめて市場を切り開くことができます。

 

風船のようなターゲットは、
市場という強固な岩に、
跳ね返されるばかりです。

 

かといって、針のように細いターゲットも、

まったく通用しません。

 

一人にまで絞ったターゲットは、
最初は針のようなものかもしれません。

その針を、最初はほんのささやかな市場
に対して、テストしてみるのです。

 

ウォークマンの場合であれば、
井深は盛田で市場テストしたのです。
盛田という、これまた、たったひとりの
ユーザーに使わせてみて、その反応を
探ってみたのです。

 

針をチクリと刺された盛田は、
大きく反応しました。
そしてその針を、さらに太くして、
こんどは事業部という
社内市場にブスリと刺したのです。

 

そうやって、テストマーケティングを
繰り返し、徐々に針を太く、テストする
市場を膨らませながら、鋭く堅いくさび
(ターゲット)を強固なものとして、
市場に打ち込むのです。

 

マーケティングというと、
すぐに市場調査だ!アンケートだ!
と想定する最終顧客にぶつけようと
していませんか?
それは風船のようなもの。

 

ターゲットを絞る。
テストマーケティングをする。

 

マーケティングの教科書には、
そう書いてありますが、
その真髄を理解しない限り、
実践しても空回りです。

 

オーナーは、たまにはわがままを
言ってみるのもいいですね。
「オレのために作れ!」と。

 

さらにきちんとテストして、
その結果を
冷静に受け止めることができれば、
飛躍への第一歩をつかむことができます。

 

いまあなたが関わっている直販ビジネスで、
なにかひとつ、このやり方を試して
みてはいかがでしょうか。

 

たとえば、奥さんという一人のターゲット
を満足させることを考えてみるとか。

 

この記事は、
拙著、「市場が技術をドライブする」
東京理科大専門職大学院総合技術経営専攻(MOT)ワーキングペーパー

を参考にしました。

 

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