代理店は敵ではありません。

シリーズ「飛躍の瞬間」第8回は、
地酒の名門ブランド一ノ蔵の、
全国展開のきっかけを追います。

直販を伸ばしたい。

私のクライアントの最大のテーマですが、
すべてを直販にすることが目標。
とは限らないですし、
すでに代理店を通して、
ビジネスを進めていることが、
ほとんどです。

既存の代理店と、
どのようによい関係を
構築していくか。
は避けては通れない重要な視点です。

代理店、問屋さんは、強力な販路を
持っています。
よい関係を築くことができれば、
良質なお客様に自慢の商品を
お届けすることができます。

では、代理店との
よいパートナーシップを組む条件
とはなんでしょうか?

宮城の酒蔵、一ノ蔵が東京市場に進出した
ときの例で見てみましょう。

一ノ蔵

出典:一ノ蔵

 

1973年創業。
一見歴史は浅いように思えますが、
実は、歴史ある4社が集まって、
設立された蔵元です。

伝統的な日本酒造りにこだわりながらも、
「すず音」「ひめぜん」など、
低アルコールの新しいジャンルへの、
挑戦にも意欲的な、蔵元です。

なかでも、
1977年発売からロングセラーの、
「一ノ蔵 無鑑査 本醸造 超辛口」
が有名です。

日本酒の級別制度がまだ残っていた時代、
あえて審査を通さずに、
「二級酒」として、本醸造酒を発売
しました。

しかし、そのような変則技で、
知名度のない一ノ蔵が、
全国の酒屋でどんどん扱ってもらえるというほど、
日本酒市場は甘くはなかったのです。

当然のアクションとして、
他の蔵元と同様、
まずは東京の問屋さんに、
新製品を売り込みにいくわけです。

これまた当然のように、
問屋さんとの商談は、
「リベート」
「宣伝費」
という取引条件のことばかり。

当時、石油ショックで新工場の
建設費用が、計画を大幅に上回り、
販促費に余裕がない一ノ蔵にとっては、
そう簡単に、問屋さんのいう
条件をのむわけにも、
いかないわけです。

一方、戦後の大量生産の
均一化された日本酒に疑問を感じていた、
酒問屋岡永の飯田社長は、
地方の手造りのうまい酒を全国に届けたい。
との想いで、「日本名門酒会」を
立ち上げていました。

一ノ蔵が、日本名門酒会を
訪問したところ、
飯田社長は、取引条件には
一切触れず、まず
利き酒をしたそうです。

飯田社長は取引するにあたり、
3つの条件を出しました。

1.東京の消費者を対象に、
「楽しむ会」を企画し、
直接消費者の反応をつかむこと

2.東京に販促担当者を常駐させ、
飲食店へのフォローを徹底すること

3.流通経路を明確にして、日本名門酒会
を軸にすること

そして、これを3年から4年続ければ、
年間5百石の販売を約束する。

一ノ蔵は、この条件に従って、
地道にアクションを続けました。

その結果、目標の5百石は、2年間で
達成し、その後の全国販売網づくりの
きっかけになりました。

飛躍の瞬間は、
飯田社長が出した3つの条件に対して、
100%信頼をして、
アクションプランを立案した瞬間です。

飯田社長は、後日このように一ノ蔵を
評価しています。

「一ノ蔵が伸びたのは、
私の3つのアドバイスをきちんと
実行したから。
他のメーカーにも
同じアドバイスをしたが、
1、2度取り組んでも、
継続してやらなかったことろが多かった」

まず、1.2.は、
蔵元が直接エンドユーザーおよび販売店と
コミュニケーションすることの、
重要性を表しています。

こんな手間がかかるなら、
問屋なんていらないのでは?

そうではないのです。

問屋と販売店の長年の取引の蓄積
による信頼関係は、
強固なものです。

そう簡単に奪ったり、マネしたり
できるものではないのです。

信頼関係の土俵の上で、
一ノ蔵はエンドユーザーや、
販売店とコミュニケーションが
成立するのです。

3.は、一ノ蔵と問屋の信頼関係
構築の重要性を表しています。

ある意味独占販売権ともとれる、
厳しい条件ですが、
他の代理店、問屋と取引する場合でも、
その情報をオープンにすること
が大切です。

また、1.2.の顧客と、
直販関係になってはいけない。
ということが、問屋との信頼関係の
うえでの絶対条件です。

軸になる問屋を本物と認めたならば、
とことん信頼することが必要です。

またそのような信頼できる
問屋、代理店でなければ、
軸にはできません。

そして、なによりも重要なことは、
3、4年継続すること。
です。

これはなかなかできることではありません。

しかし避けては通れない条件でもあるのです。