AlphaGoは囲碁のルールや定石を直接教わっていません。ただひたすら対戦を繰り返し、過去の棋譜を学びながら、どうすれば勝てるかだけを考えるように仕向けられて強くなりました。

ルールや定石は、本来、学びながら覚えるものかもしれません。

みんなで集まってトランプやウノを始める時、はじめてそのゲームをやる人が混じっていることがあります。最初は、ルールをこと細かに説明しようとするのですが、だんだん面倒くさくなって、「とりあえずやってみよう!」ってなりますよね。「最初は練習、練習!」なんていって。

トランプ

ゲームの進め方を、はじめてやる人が知る必要はありません。知っている人が勝手に進行します。どのカードが強いか、はある程度知っておくべきです。しかし複雑なルールまで知らなくても、ゲームの中で必ずそのルールを使う場面が出てくるので、一度そういう場面が出てくれば覚えます。最初から細かいルールを全部頭に入れておく必要はありません。どうなったら勝つか、これも正確な説明が面倒な部分です。大雑把にこうなれば勝つ。とは説明できるのですが、結局、「とりあえず一回やってみればわかるから」なーんて言って、カードを配りはじめることが多いものです。実際、一回やれば、どういう状態になれば勝つか、ということは把握できるものです。

一回目のゲームでは、はじめてやる人は質問の嵐です。「え?それどういうこと?なんでそのカードを取られるの?」そういう質問に一通り概略答えていけば、1回目が終わった時点で、はじめての人もおおよそゲームの流れをつかむことができます。そしてたいてい2回目からは、「さあ本番!本番!」となります。

1回でおおよそ把握できるのは、カードゲームがおよそどういうものか、という共通認識があらかじめ頭の中にあるからでしょう。これがトランプをいままで一度も見たことのない人に対してであれば、スタートは相当苦労することになります。

英語を学ぶときはどうでしょうか?

私たちは自分が日本語を覚えた時とはまったく違うやり方で、英語を学びました。いろいろな会話を聞きながら、「ああ、彼が主体のときは動きの言葉にsをつけるのか」という覚え方をしたのではなく、最初から「三単現のs」というルールを学びました。三単現のsを理解するには、「主語」とは、「動詞」とは、「三人称とは」、「単数とは」、「現在形とは」、、、細かいルールを順に正しく理解する必要があります。どうもこのやり方では、従来型のコンピューターが囲碁に歯がたたないのと同じことが起こりそうです。

ルールや定石は、学習の手助けになります。ショートカットできます。ディープラーニングのように、最初から手数を経験してルールや定石を把握するよりも、ずっと短い時間で効率的に上達することができます。しかしながら随分と初歩的なところで、その上達はとどまってしまい、ほんとうに楽しいところまで実力をつけるには、まったく別の努力を強いられるような気がしてなりません。

私たちは少なくとも日本語を、ディープラーニング的なやり方で覚え、たとえそれが少々正しくない使い方をしていたとしても、なんの引っ掛かりもなく自由に楽しく使いこなせています。トランプでいえばカードゲームのなんたるかは、おおよそ経験して知っているといっていいでしょう。それなのに、英語についてはルールと定石を頭から理解させられて、いつまでたっても新しいトランプを楽しくスタートすることができないまま、ひたすらゲームの説明ばかりを聞かされるような経験をしました。

最近の英語教育は、私達の時代とはずいぶん変わりました。受験英語で文法問題を直接問われるようなことはなくなりました。正しい方向に進化しているのは喜ばしいことですが、いかんせん教える側の世代が旧世代なので、その変化スピードは遅々としたものです。

新しいトランプゲームを覚えるようなやり方で、ルールや定石はとりあえずやりながら徐々に覚えることにして、英語や他のいろいろな新しいことを、ワクワクしながら上達することができたらいいですね。