海生シリーズその4は、さざえ

海のものを「生」でいただく醍醐味、あわび初体験記
海のものを「生」でいただく醍醐味その2、いか
海のものを「生」でいただく醍醐味その3、ぶり

 

またまた対馬の漁師さん家にて。

 

「今日はうちのガキを連れて、
いっしょに海にいこう」

と誘われて、小学生のケンちゃんと、
お父さん、お母さんに、お供させていただきました。

 

港から小舟を出して、
岩場から100mくらい沖へ。

海の上からは何も見えないけれども、
水面から2mくらい下が、
いわゆる棚になっていて、
そこにさまざまな生き物が。

とにかく透明度がよくて、棚がくっきり見える。
棚から急に海は深く落ち込んでいて、
海の底のほうまで見えるくらい
海が透き通っている。底まで20mくらいとのこと。

 

「お兄ちゃん、さざえ採ろう!」

ケンちゃんは、さっそく海にドボン。

あとで聞いてびっくりした話ですが、
海に囲まれた対馬の子供は、泳げません。
なぜなら、島にプールがないから。

小学校の水泳の授業は海で行います。
小さいころから慣れ親しんでいる浜。
プールで教える水泳とは、
ひと味もふた味も違うようです。

彼らは横にすいすい泳ぐことはできないのですが、
縦にはめっぽう強いのです。
つまり潜りの達人なのです。

 
ケンちゃんはこともなげに、2m下の棚にたどり着き、
あれこれ岩を探っています。

ところが、この私は、水面でジタバタしているばかりで、
まったく棚にたどり着けないのです。

「さざえ、採ったよぉ!」

そうこうするうちに、ケンちゃんは、
さざえをゲットしました。

お父さんに「もっと大きいの採ってこい!」
と怒られています。

あせる私をしり目に、
「うに、採ったあ!」
とケンちゃんは次々に獲物を
舟に上げてきます。

 

「ケンちゃん、ケンちゃん、どうやって潜るの?」
「お兄ちゃん、こうやるんだ」

そういって、ばしゃーんと潜っていきました。

潜れるのが当たり前のケンちゃんには、
やってみせるしかないのでしょう。
ともかく見よう見まねでやっているうちに、
何回かに一回かは、棚に手が届くようになりました。
ところがどこをどう見渡しても、
さざえが見当たりません。

同じところを潜っても、ケンちゃんは、
ちゃんとさざえを見つけて採ってくるのです。

 

 

田んぼ育ちの私には、
大自然の海の中では、
なにも見えていない、さざえひとつ採れない。

大自然を前に太刀打ちできない自分を痛感しました。

 

ケンちゃんがあらかた満足したころ、
お父さんが、「じゃ、ちょっといってくる」
と海に入りました。

ほどなく、ケンちゃんが採ったどのさざえよりも、
でっかいさざえを採って上がってきました。

ケンちゃんの目が輝いています。

「次は今日の晩飯だ」

と言って、モリを持って、
ズドンと深く潜っていきました。

底までたどり着いて、あちこち
動き回っているのが、海の上から
よく見えます。

いつまで経ってもも、上がってこない。

水面から、ケンちゃんと私は、
固唾を飲んで、底にいるお父さんの動きを、
見守っていました。

 

どれくらいの時間がたったか、
スーッと上がってきたお父さんのモリには、
りっぱな石鯛が刺さっていました。

ケンちゃんの目は、ますます輝きました。

お父さんの威光。

かっこいい!かっこよすぎる!!

男たるもの、食えるものを採ってきて、なんぼ。

心底、そう思いました。

 

家に帰ってから、
石鯛やさざえをさばくお父さんも、
これまたかっこよかったのですが、
ケンちゃんは、そこは興味なさそうでした。

さざえ
お父さんの採ってきた石鯛も、
ケンちゃんの採ってきたさざえも、
筆舌に尽くしがたいうまさでした。

 

本物の海の、素晴らしい恵みを味わいながら、
海のものを採れる男になってやる!
と小さな決意をしたのでした。