昨日は、こんな話題。

「ちりめんじゃこ」と「しらす」の違い、知ってますか?

湘南でたまに見かける「生しらす」ののぼり。
生しらすの話をする前に、
こんな経験を思い出しました。

あわび皿

福岡にいた学生時代、
好きな自転車にテントを担いで、
フェリーで対馬に渡りました。

対馬は九州より韓国が近い島。

対馬暖流の真っただ中にあるこの島は、
海の透明度が抜群。

そのころは「海」というものを、
まだまだよく知らないときでした。
水泳のゴーグルを着けて、
もっぱら人気のない海岸を見つけては、
恐る恐る海岸近くを泳いで、
海中を眺めていました。
まだ「潜る」ということが、
できなかったんですね。

 

ある岩場の近くを泳いでいたとき、
ふと気づくと、海女さんが海に潜っていました。

やがて海女さんが水中から上ってきて、
「あ~っっ」
と甲高い声をあげました。
長く息をこらえた状態から、水中に出たとき、
息を吸う動作の中で、出る声のようです。

この声がなんとも艶っぽい。

その後もなんども
「あ~っっ」
「あ~っっ」
という声を聴きつつ、
仕事の邪魔をしてもいけないな。
などと思いながら、少し離れたところを、
泳いでいました。

 

さて、そろそろ浜に戻ろうかというとき、
ふいに海女さんに声をかけられました。

「あんた、これ食べなさい」

そう、対馬の人はたいてい、
いきなり話しかけてきて、しかも命令形なのです。

手に持っているのは、あわび。

「あ、あ、これ、あ、あわびですか?」
「これ食べなさい」
「僕は旅行中で持って帰れないです」
「今食べなさい」
「え、え、今ですか?」
「今、剥いてあげるから」

くりっと貝をはずして、手渡されてしまいました。

 

ずっしり重いあわびの塊。
思えばそれまでの人生あわびというものを食べたことなし。
海の上で「これを今食べろ」と命令されてしまった状況に
おいて、できることはひとつしかない。

かじる

それはまぎれもなく「海」そのものの味でした。
最初はよくわからなかった。
ついさっきまで生きていたあわびの食感は、結構固い。
しかし噛みしめるほどに、
やわらかい甘さが口に拡がっていく。
海水の塩分が、その甘さをさらに引きたて、
あわびの塊の奥から甘さがあふれてくる。
決して主張することのない、でも力強い自然の甘み。

 

これが、海のものを「生」でいただく、
私の原体験です。

そして、この経験は、「生しらす」へと
つながっていくのです。