新幹線東京駅ホーム、「奇跡の7分間」と呼ばれる車内清掃作業。
その作業の正確さと素早さは、「世界一の現場力」と呼ばれています。
そのチームワークの素晴らしさもさることながら、
奇跡の7分間を産み出す日本の技術力も忘れてはなりません。

たとえば、ヘッドレストカバーの交換。
あっという間に交換できるのは、マジックテープのお陰です。

新幹線シート
出典:クラレ

その昔、特急のヘッドレストカバーは数カ所のホックで留めてありました。
1960年にクラレが商標登録したマジックテープは、
1964年開業の東海道新幹線に採用されてから、
知名度が上がり、普及し始めたそうです。

 

新幹線には、ヘッドレストカバー以外にも、マジックテープが
多く使われています。

N700系
1.ヘッドレストカバー
2.座席の表張りの固定
3.座席の表張りの浮き止め
4.クッションパッド
5.座席肘掛け

 

マジックテープの発明は、スイスです。
ひっつき虫、ごぼうの実からヒントを得て、
無数のフックとループによる面ファスナーが考案されました。

クラレがその特許ライセンスを取得して、事業に乗り出したものの、
当初はまったく売れずに在庫の山を築いたといいます。

新幹線という「速さ」を求められる市場を見つけてはじめて、
マジックテープの得意の「速さ」というベネフィットが、
活かされたのです。

新幹線にマジックテープが採用されたのは、
「信頼性」「耐久性」などの理由もあったでしょう。
しかし、モノを留める。という用途でいえば、
当時はすでに便利なモノがたくさんあったのです。

服のボタン、ファスナー、靴ひも、がま口財布

 

既存の市場に対して、同程度のベネフィットをぶつけても、
市場拡大は起こりません。その商品のもつベネフィットを、
最も活かせる市場を見つけて、その狭い領域をまず攻める。
狭い領域で一番になることで、周辺の領域も攻めることが
できるようになります。

事実、サーフィン用の財布や低学年と高齢者の靴は、
マジックテープが歓迎されるようになりました。