ソニーで開発一筋だった元副社長大曽根幸三氏は、

「急ぎの仕事は忙しいヤツに頼め」

など、味のある語録を数多く残しています。
その語録の中に、

「大きさとコストは半分に、利益は倍に、がソニーの鉄則だ」

という言葉があります。

非連続のイノベーションは、日々の数%のコストダウン活動からは生まれないことを、的確に表現しています。思い切った目標が必要なのです。

 

「重量半分、コスト半分、寿命半分」

あるところでこんなキャッチフレーズを見つけました。

吉野家の、

「うまい、やすい、はやい」

に似ていなくもないですが、決定的にユニークなのは、

「寿命半分」

ですね。

100円ショップの商品企画なら、

「コスト10円、寿命半年」

というのも、アリ、なのですが、
さて、このキャッチフレーズで開発された商品は、なにかわかりますか?

 

 

 

JR東日本通勤形電車209系です。
京浜東北線に1993年に投入された車両です。

京浜東北線s
出典:Wikipedia photo by DD51612

ずいぶんと重量級の商品で、
思い切ったキャッチフレーズですね。
使い捨てカメラの「写ルンです!」をもじって、

「走ルンです!」

と呼ばれたこともありました。

 

「寿命半分」には、明確なコンセプトが込められています。通常電車の車体は、30年くらいもつものだそうです。それに比べて、搭載する様々な機器の進歩は早く、年々陳腐化します。そこであえて税法上の減価償却期間13年に合わせて、寿命を設定することで、思い切った重量削減とコスト削減を達成しようというわけです。

開発はコンペ方式で、各社が独自の方式を新たに提案し、しのぎを削りました。

この新しい設計思想の車両は、その後のJR東日本の設計標準となっただけでなく、参加したさまざまなメーカーが育つことで、他のJRや私鉄車両の開発に大きな影響を与えました。

 

大きな変化が必要なときは、高い目標をかかげるだけではなく、なにか大事なものを捨てる必要があります。209系車両の場合は、寿命だったわけです。